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建物全景。南西からの外観。黒塗りの板張りに、ガルバリウム鋼板の外壁です。

南側道路からの外観です。

駐車場のある北側外観の様子。コンクリートの物置小屋の向こうに住居の入口があります。
2階部は物干しスペース。メッシュで覆っているのは、飼い猫の遊び場とするためです。

奈良の写真館兼住宅光と影のスタジオ

奈良市の幹線道路に面して建つ、写真館を併設した店舗併用住宅です。ショッピングセンターが賑わいを見せるこの場所は、車が絶えることなく行き交います。しかし、一歩路地へ入れば、昔ながらの農家と新しい住宅が混在する穏やかな風景が広がる、新旧の境界線のような土地が今回の計画地です。

クライアントのビジョンと建築家への設計依頼

この奈良の地で古くから愛されてきた写真館の歴史を受け継ぎながら、他にはない存在感で地域に根ざした「未来のスタジオ」を創りたい。写真館ブームも相まって新興住宅地付近に写真館が乱立したため、なによりも差別化を図りたい。設計依頼は、クライアントのそんな強い願いから始まりました。事業の中心を出張撮影からスタジオ撮影へと転換し、理想の仕事場と住まいを両立させる建築計画です。

設計の初期段階から、クライアントの中には店舗の機能性、住居との関係性、そして日々の生活動線や仕事のワークフローに至るまで、驚くほど整理されたイメージがありました。その明確なビジョンを対話の中から丁寧に汲み取り、一つの建築デザインとして具現化することを特に意識しました。

「カメラとフィルム」を表現したファサードデザイン

外観は、マットな質感の黒い杉板と、鈍い銀色を放つ素地のガルバリウム鋼板で構成しました。これは、カメラのボディや暗室といった、写真にまつわる道具や空間が持つ独特の空気感を表現したデザインコンセプトです。ミニマルで硬質なハコの中から、色鮮やかで温かい、人生の記憶が生まれてくる。その対比とストーリーを建築に込めました。

光を採り込むアトリエのような写真スタジオの設計

交差点に面したファサードは、夜になると道路の喧騒から切り離されたように光を放ち、浮遊感のある佇まいが道行く人の視線を集めます。 クライアントからの要望は、「店内すべてが撮影スタジオになる空間」でした。内部を巡りながら、様々なシーンを切り取れるような空間となるよう設計しています。スタジオから続く庭までもが撮影の背景として機能します。

このスタジオ建築の最大の特徴は、自然光の活用です。北側に大きな窓を設け、安定した自然光が豊かに降り注ぐ空間は、まるで画家のためのアトリエのようです。この創造性を刺激する静謐な光が、ここで撮影される写真に深みを与えます。

店舗の喧騒から切り離されたプライベートな住居空間

住居へのアプローチは、建物の裏側にひっそりと設け、店舗とは明確に動線を分離しました。階段を上がると、2階に広がる開放的なリビング・ダイニングが現れます。 店舗のシャープな雰囲気とは一転し、住居部分はナチュラルで柔らかな素材でまとめ、心から寛げる快適な居住空間を目指しました。リビングの大きな窓は幹線道路に面していますが、腰高の本棚を手摺として設えることで視線を調整し、クライアントの暮らしに寄り添うデザインとしています。

竣工後、スクリーンやライト、カメラが入ると、いつでもスタンバイされたスタジオに一変したのが今も不思議です。大好きな猫と一緒に暮らしも楽しんでもらっています。

店舗スペース。
右手は受付カウンター。格子戸の奥は作業スペースになっています。

受付カウンターと作業スペースの格子戸。
上の写真のように、格子戸を重ねると、格子が細かく重なるようにしました。シャッターをイメージするような遊びです。

待ち合いスペース。右手奥には証明写真用の小さなスペースを併設しています。

メインスタジオに向かう廊下はトップライトの連なるギャラリーになっています。

ギャラリーを抜けてメインスタジオの入口に。高さを押えて印象的にしました。

入口を入ると、正面に小さな庭のあるスタジオに入ります。

スタジオ正面と庭の様子。

スタジオを振り返った様子。
撮影アイテムとして象徴的な階段を用意しました。そのまま、2階の納戸へも繋がっています。

階段の上からスタジオを見下ろした様子。

住居入口を入って、2階へ上がる階段の様子。
2階には、猫の遊ぶキャットウォークを用意しました。

2階リビングの様子。キッチンのある奥が2階入り口側になります。

2階奥の寝室スペースは畳敷きにしています。

キッチンと、バスルームや水廻です。

夜景。西側正面からの建物全景。

Photo:絹巻豊

建築概要

【 敷地概要 】 ・場所/奈良県北葛城郡 ・敷地面積/316.29㎡ ・用途地域/市街化区域 準工業地域 建蔽率60%容積率200% 防火地域指定無し(法22条指定地域) 前面道路幅員(南)15.90m
【 工事概要 】 ・工事種別/新築(住宅併用店舗) ・建築面積/140.89㎡ ・延べ床面積/215.48㎡(住宅の部分:91.93㎡) ・構造/規模:木造 地上2階 ・最高の高さ:6.42m ・構造仕様:木造軸組工法 ・基礎仕様:鉄筋コンクリート造ベタ基礎
【 主な仕上 】 ・屋根:塗装ガルバリウム鋼板瓦棒葺き ・外壁:スギ板貼り木材保護着色剤・素地ガルバリウム鋼板角波板
【 主な仕上 】店舗内装: 床/長尺塩ビシート ・壁/ビニールクロス
スタジオ内装:床/ブラックチークフローリング ・壁/シラス左官壁 ・天井/EP
住宅内装: 床/構造用合板ワックス・タタミ ・壁天井/ビニールクロス
【 設計/施工 】 ・設計/庄司洋建築設計事務所(担当:庄司洋) ・施工/伊藤嘉材木店(担当:妹尾) ・家具/カリエラ ・外構/中川農園 ・看板/エヌズクラフト ・キャラクター/群青亜鉛

完成:2006年4月


掲載等

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余談になりますが、スタジオ最初の撮影はこの工事にかかわってくれた電気屋さん家族です。子供たちの笑顔が本当に愛らしく写っていました。
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