
3階居室の様子

建物全景

3階居室の様子

始まりは、アメリカから届いた一通のメール
この家づくりは、アメリカから届いた一通のメールから始まりました。2001年の夏、まだ独立して間もない私の拙いホームページを見つけてくださったのが、当時アメリカで研究員をされていた施主様でした。遠い海外からの思いがけないご連絡に、思わず胸が高鳴ったのを今でも鮮明に覚えています。
帰国後にお会いし、家づくりへの熱い想いをお聞かせいただきましたが、ご事情で計画は一度保留となりました。それでも関係は途切れることなく、折に触れてご連絡をいただく日々が続きました。そして4年の歳月が流れた2005年の秋、測量図が添付されたメールが再び届いたのです。 それは、中断していた計画が新しい土地を得て再始動する、驚きと喜びに満ちた瞬間でした。
コンセプトは、暮らしを味わう「おいしい白米の家」
施主様との長い対話の中で、設計のキーワードは最初から一貫していました。それは「おいしい白米のような家」です。 どんなおかず(暮らし)にも合い、主役であるご家族の個性や彩りを最大限に引き立てる、シンプルで飽きのこない器であること。私たちはその想いを実現するため、素材を一つひとつ吟味し、光と風が心地よく通り抜ける、無駄のない住まいを目指しました。
この家が建つのは、神戸市内の狭小変形地です。その制約を逆手に、木造3階建ての中に広がりと機能性を持たせる設計をご提案しました。
街の灯台「ライトハウス」に込めた二重の想い
将来の開業も見据え、街に開かれた場所を望まれていた施主様。この家が、街の「灯台(ライトハウス)」のように、人々を温かく照らすランドマークになってほしい。 そして、息子さんのお名前から一文字をいただいた「ライトハウス」という名には、そんな二重の願いが込められています。 その想いを体現するように、外観は街の新たな指標となるようなモダンな表情を持たせつつ、一歩中に足を踏み入れれば、ご家族が自分たちの手で暮らしを彩っていくための「余白」が広がっています。
最高の「味付け」で育まれる、建築家としての喜び
お引き渡しの際、私たちは丁寧に炊き上げた「白米」を味わっていただくような気持ちでした。日曜大工がお好きな施主様が、これからどんな「おかず」を盛り付けていかれるのか、楽しみでなりませんでした。
住み始めてから、バイクガレージを設け、庭に少しずつ緑を植え…。「やっぱり我が家が一番ですよ」と、ご自身の暮らしを豊かに「味付け」されているご様子が、私にとって何よりの喜びです。 住まい手が主役となり、その人らしい「味」が加わっていく。建築家として、これ以上に有難い事はありません。
ロゴマーク「来斗居」は施主さんのアイデアを元に作成しています。

2階リビングダイニング

1回玄関ホール

1階からの階段見下げ

2階

3階居室の北側

正面入口

玄関ポーチ

建物全景。夜景。
Photo:絹巻豊
建築概要
【 敷地概要 】 ・場所/兵庫県神戸市 ・敷地面積/93.47㎡ ・用途地域/市街化区域 第1種住居地域 建蔽率60%・容積率164% 準防火地域 ・前面道路幅員:(東)4.1 m
【 工事概要 】 ・工事種別/新築(1戸建ての住宅) ・建築面積/38.23 ㎡ ・延べ床面積/103.42 ㎡(住宅の部分:同じ) ・構造規模/木造 地上3階 ・最高の高さ/8.82 m ・構造仕様/木造軸組工法 ・基礎仕様/鉄筋コンクリート造ベタ基礎
【 主な外部仕上 】 ・屋根/ガルバリウム鋼板素地波板 ・外壁/ガルバリウム鋼板素地波板、一部窯業系サイディング
【 主な内部仕上 】・床/メイプルフローリング・杉フローリング・和紙タタミ ・壁/ビニールクロス ・天井/ビニールクロス
【 設計/施工 】 ・設計/庄司洋建築設計事務所(担当:庄司洋 橋口達也) ・施工/阪神都市開発
「すまいの感想」
早いもので、来斗居(Light House)」に住み始めて約2年半が経過します。さらに振り返って、庄司さんと初めてメールの遣り取りを開始したころから考えると足かけ10年が経っています。
その時のメールを見てみると、庄司さんとの間でキーワードになっていたのが「美味しい白米」という言葉・・・洋食にも、中華にも、もちろん和食にも欠かすことが出来ず、そして主役となるメインディッシュの魅力をさらに引き立てる存在・・・そんな「美味しい白米」のような家に住んでみたいと言うのが当時の希望で、その希望が「来斗居」に住むことで実現できた・・・というのが今の正直な感想です。
設計依頼から竣工に至るまで、建築条件での摺り合わせ、狭小変形敷地、コスト面での調整などなど、問題山積の依頼で庄司さんには本当にご迷惑をお掛けして申し訳なかったのですが、今は大満足で生活させて頂いております。
住み始めて2年半ですが、外観も内装も私たちの家族の「味付け」がかなり付いてきています。当初、駐車場あるいは子供の遊びスペースと考えていた1階オープンスペースを、自分自身で可能な限り手を加えてバイクガレージに改装したり(手に負えないところはプロにお任せしました)、「ネズミの額」ほどの小さな庭(?)にちょっとした緑のスペースを設けたり・・・住み始めて手を加えたいと思ったところに少しずつ「味付け」出来るのがこの家の最大の特徴です。
新築時に「作り込ん」で理想とする完成型に持ち込むのも素晴らしいと思いますが、「来斗居」のように住み手の「味付け」(素人のDIYなので、決してレベルの高い味付けではありませんが・・・)で色々な変化に対応してくれる家も非常に楽しいです。家族の変化に合わせて、自分たちの手で変化させることが出来る家、それが「来斗居」です。庄司さんが想定されていた方向性からはかなりズレているかも知れませんが(庄司さん、本当に申しわけありません! 汗)、私たち家族の満足度は、これまた庄司さんの想定を遙かに超える高いものとなっています。
これからも色んな「味付け」で「美味しい白米」の魅力をアップしていきたいと思っています!
( 20090422 施主様より )
「感想」に併せて届いた写真は、光の様子からきっと朝早く、このために撮っていただいたに違いありません。
阪神電車で神戸に向かうと途中の駅の構内からこの住まいを垣間見る事ができます。その駅を通るたびに、今はどんな様子だろうかと窓越しに良く覗いていました。気負いの無い姿勢で生活を楽しまれている。はじめてメールを頂いたときから少しも変わりません。そんな施主さんの気持ちがとても素敵です。



