建物全景。屋根はガルバリウムで覆い、壁はフレキシブルボードを鎧のように貼っています。
２階リビング全景。１階からスキップ状になったワンルームの空間です。
トップライトで空まで抜けるような、吹抜け見上げ。
施主様の最初のコンタクトは随分と前。忘れかけたころ、不思議なご縁となり、土地探しの段階から再び家づくりをご一緒するプロジェクトが始まりました。
計画が始まった時点で、施主様の理想のイメージは非常に明確でした。「ワンフロアのような一体感」「スキップフロアのある家」「光と影が美しい高い天井」「内外装の統一感」「流行に左右されない普遍的なデザイン」。そして、ロックやテクノを趣味にされる施主様ならではの「倉庫やクラブハウスのような住まい」というユニークなキーワード。これらを羅針盤に設計をスタートしました。
敷地の個性を読み解く
敷地は、閑静な住宅街の中腹に位置します。一見平坦に見えますが、実は2方が石積みの擁壁に囲まれた高低差のある、いわゆる「狭小地」かつ「変形地」。土地のポテンシャルを最大限に引き出すことが求められました。
そこで、施主様のご要望であったスキップフロアの構成を活かし、建物を安定した地盤まで深く根付かせることで、半地下を含む2層の木造建築として敷地の課題に臨みました。
また一見すると空地が少なく、住宅地の建物とすれば建蔽率を超えているように見えるかもしれません。が、道路にも思える通路部があり、そこが敷地として含まれているため、法規的にはむしろ余裕を持った計画となっています。
歪みから生まれる、唯一無二のデザイン
この住宅の最大の特徴は、それら敷地の持つユニークな歪みを、そのまま建物の個性として取り込んだ点にあります。平行四辺形の平面に、誰もが思い描くようなシンプルな「家型」のフォルムを載せる。この操作によって、見る角度によって表情を豊かに変える、変化に富んだ立体が生まれました。
内部空間では、柱や登り梁といった力強い架構を強調して見せることで、構造そのものが持つ連続的な美しさをデザインの一部としています。
間仕切りのない大空間と、光が降り注ぐ吹き抜け
この家には、空間を細かく区切る間仕切り壁が基本的に存在しません。スキップフロアが半地下の寝室からロフトまで螺旋のように連なり、隔てるのは浴室のガラス扉のみ。まるで一つの大きなワンルームのような、開放感あふれる大空間が広がります。
寝室から見上げる吹き抜けは、3層分に迫る高さ。頭上に設けた大きなトップライトからは、光が降り注ぎ、圧倒的な上昇感さえ感じます。
素材の「素」を活かした、飾らない内外装
内外装には、セメントの質感が印象的なフレキシブルボードや、クールな印象のガルバリウム、温かみのある構造用合板といった、あえて素朴で飾らない素材を選定しました。キッチンや階段、手摺には素材感が際立つスチールを合わせるなど、ディテールの一つひとつに「素」の魅力を引き出す工夫を凝らしています。これは、流行に消費されない、本質的な価値を持つデザイン住宅を目指したものです。
「WAON（和音）」と名付けたこの住まい。ご家族三人の奏でる日々の音色が美しく響き合う、飾らない「素の住まい」であってほしい。そして、この場所が、ご家族にとってかけがえのない時間を紡ぐ舞台となることを、心から願っています。
１階車庫奥の玄関を入ると、半地下の寝室に、２階のキッチンが見えます。
空調では、３層吹き抜け一室空間のため上下に空気を循環させるようファンを設け、室温の上下差をできるだけ無くすよう工夫しています。
階段からキッチンを見る様子
階段を上がって見返すと、１階にはバスルームが見え、ステップで上がる２階のリビングがあります。
バスルームを奥から見る様子。
１階寝室からバスルームを見返す様子。
リビング見返し。
リビングの床材がそのままダイニングテーブルになっています。
ハシゴを上がった上はロフト。
キッチンからリビングを見る様子。
リビング北面。
リビング西側にバルコニーがあります。
吹抜けを見下ろす様子
ロフトの様子
ロフトからリビングを見下ろす様子
建物正面。夜景。
Photo：絹巻豊
建築概要
【 敷地概要 】・場所／兵庫県西宮市 ・敷地面積／89.21㎡ ・用途地域／市街化区域 第２種低層住居専用地域 建蔽率60％ 容積率150％ 第１種高度地域（5M＋1.25／1＜12M） 敷地面積の最低限度80㎡ 高さの最高限度10M） 前面道路幅員（西）4.0m
【 工事概要 】・工事種別／新築 ・建築面積／43.30 ㎡ ・延べ床面積／67.96 ㎡ ・構造規模／木造 地上２階 ・最高の高さ／8.76 m ・軒の高さ／6.286 m ・構造仕様／木造軸組工法 ・基礎仕様／鉄筋コンクリート造ベタ基礎、柱状改良
【 主な外部仕上 】・屋根／塗装ガルバリウム鋼板一文字葺き ・外壁／フレキシブルボード・ガルバリウムサイディング
【 主な内部仕上 】・床／研ぎだし杉フローリング ・壁／フレキシブルボード、構造用合板、水性塗装（油煙墨） ・天井／フレキシブルボード、構造用合板・水性塗装（油煙墨）
【 設計／施工 】 ・設計／庄司洋建築設計事務所（担当：庄司洋） ・施工／いなほ工務店（担当：末石稔雄／大工：池田真二） ・金物／ＬＯＯＰ ・家具／カリエラ ・化粧木材／協同組合「しそう森の木」／服部商店
完成：2009年１２月
P_kan｜庄司洋建築設計事務所 