
2棟に分かれたような特徴的な外観

リビング棟をロフトスペースから見た様子。

中庭の様子。

掲示板から始まった、奈良の家づくり
始まりは、当事務所ウェブサイトの掲示板に施主様が綴られた、何気ない書き込みでした。
施主様との家づくりは土地探しから始まりましたが、当初から平屋を計画していた訳ではありませんでした。いくつかの候補地を経て、最後に巡り会ったのは、十分な広さを持つ穏やかな土地でした。その土地に立ったとき、この土地の魅力を引き出す答えが「平屋」にあると思い、ご提案しました。
計画はそこから大きく前進します。単一の大きな建物ではなく、あえて2つの棟を渡り廊下で繋ぐ「分棟型平屋」というアイデアに辿り着きました。これは、暮らしのシーンに応じて空間の性格を分けるための提案です。
光をデザインする。2つの棟を繋ぐハイサイドライトと渡り廊下
この家の特徴は、2つのボリュームと、それらを繋ぐ光の計画です。
- パブリックな北棟:
家族やゲストが集うリビング・ダイニングをメインとした、天井の高い開放的な空間。 - プライベートな南棟:
寝室や水まわりをまとめた、静かで落ち着きのある空間。 - 繋ぐ玄関棟:
2つの棟を結ぶ渡り廊下の役割も果たす玄関。ここを抜けることで、空間の切り替わりと、その先への期待感を演出します。
そして、この住まいの最大の特徴が、2棟の四方をぐるりと囲むように設けた「ハイサイドライト(高窓)」です。これにより、安定した自然光を室内の奥深くまで届けることができます。光の帯は、一日の太陽の動きや四季の移ろいを室内に映し込み、暮らしの中に穏やかで美しい時間の流れを感じさせてくれます。
『one-story house』- 物語が宿る住まい
竣工の折、施主様はこの家に『one-story house』という素敵な名前を贈ってくださいました。それは文字通り「平屋」であると同時に、私たちの出会い、土地探し、そして設計の対話といった、幾つもの物語が折り重なって出来上がった「一つの物語(One Story)」でもある、と。
設計の意図を深く汲み取ってくださったその言葉は、最高の賛辞を頂きました。
施主様の暮らしが主役、これからの物語へ
私たちの仕事は、物語のプロローグと、そのための舞台を整えることまで。これから本当の主役となる施主様ご家族が、この光溢れる住まいで、日々の暮らしの中にきらめく無数のエピソードを紡いでいかれることでしょう。この家と共に育まれる素晴らしいストーリーを、心より願っております。


角地造成地の法面をそのまま残し、建物を配置しています。
2棟の間を繋ぐ玄関棟の屋根上に、こっそりバルコニーを設えました。


2棟を繋ぐ玄関棟


玄関棟は、土間になっています。四方から使える下駄箱と収納家具を設えました。

建物の上部四周は細いハイサイドライト設けています。昼間は「はちまき」のように内部を照らし、夜間は周囲に淡く明かりを放ちます。


リビング見返し。
ハシゴの向こうはキッチンとロフトスペース。

キッチンの様子。
オリジナル家具のキッチンです。

玄関棟を中庭から見た様子。

玄関棟から寝室棟へ

廊下。こども室を横目に、奥がベッドルームです。

ベッドルーム

こども室


洗面スペースと浴室


建物夜景。

中庭の夜景。
Photo:絹巻豊
建築概要
【 敷地概要 】 ・場所:奈良県生駒郡 ・敷地面積:89.21 ㎡ ・用途地域:市街化区域 第1種低層住居専用地域 建蔽率50%・容積率80% ・高さの最高限度10M ・壁面後退1.5m ・法22条防火地域 ・前面道路幅員:(北西・南西)6.2m ・接道27.09m
【 工事概要 】 ・工事種別 :新築(一戸建ての住宅) ・建築面積 :92.96 ㎡ ・延べ床面積 :88.64 ㎡ ・構造/規模 :木造 地上1階 ・最高の高さ :4.71 m ・軒の高さ :4.305 m ・構造仕様 :木造軸組工法 ・基礎仕様 :鉄筋コンクリート造ベタ基礎/一部地盤改良
【 主な外部仕上 】 ・屋根: 塗装ガルバリウム鋼板瓦棒葺き ・外壁: モルタル金ゴテ押さえ じゅらく風アクリルリシン吹付
【 主な内部仕上 】(玄関)床/コンクリート金ゴテ 壁/じゅらく風リシン吹き付け 天井/木毛セメント板 (居間・寝室)フリースペース 床/フローリング 壁/オレフィンクロス 天井/ビニールクロス
【 設計/施工 】 ・設計 :庄司洋建築設計事務所(担当:庄司洋) ・施工 :株式会社じょぶ(担当:佐藤福男・磯山哲也) ・家具 :(キッチン・造作家具)カリエラ (ちゃぶ台)Field 古田
竣工:2003(h15)年10月
施主さんから頂いた「すまいの感想」です。
このコンテンツへの依頼を頂いて改めてあっという間に過ぎた1年を思い、自分がこの立場にいることの不思議さを感じています。枯野だった芝生も青々と色づき、ご近所で評判だった風変わりなこの家も、やっとこの地の風景に馴染み始めたように思っています。 「住まいの感想」ですが、one-story houseは使用用途に合わせて2棟分かれた平屋コートハウスですので、その特徴を踏まえた居住性を比較しつつ、まとめてみたいと思います。
【 暮らしてみて 】
私が計画段階から特に心配していたのは夏の暑さと冬の寒さでした(特に天井の高い容量の大きいリビング)。 パブリックスペースである北棟(南向き)は大開口の窓からリビングに陽射しが豊富に射し込み夏は暑くなりがちですが、灼熱になる・・・という程ではありませんでした。クーラーは飾りにしかならないかも・・と思っていましたが、効きが良かったことも意外でした。 プライベートスペースである南棟(北向き)の夏は、昼過ぎまでひんやりしていて快適でした。夜も寝室ではほとんどクーラーを使用していません。風通りは家中でフリースペースがもっとも良く、来夏はここで子供と扇風機なしにお昼寝ができるのでは、と楽しみにしています。 ロフトはさすがに暑かったからことを考えると、全体的に暑くなりすぎる部屋ということはなかったのは平屋だったということもあるのでしょう。結果的に夏のクーラー稼働率は思ったより上がらず、電気代も普段の月から飛びぬけて高くなるということはありませんでした。
奈良の冬は両棟とも流石に聞いていたとおりの寒さでしたが、これは玄関土間&引き戸、上部ハイサイドからくる冷気の影響もあったと思います。しかしこれらはone-story houseを個性的に彩る仕様でもありますので、納得するしかないと覚悟しています。 冬の寒さ対策にはガスファンヒーターを使用しています。こちらも効きがよいので、すぐに温めることができます。 唯一避けられないのはリビングから土間を通ってトイレに向かう瞬間であり、修行僧のように精神力を試される時でなのですが(笑)、サムイサムイと言いながら暖かいリビングに戻ってくる・・・寒い冬らしい感じをたまには骨まで(そこまで?)感じれるのも趣としていいか、と思うことにしています。
いずれの場合にも言えることですが、予算の都合上温水パネルや床暖房などの大掛かりな暖房設備はカットしながらも、断熱を重視し充分に装備してもらったことがこれらの凌ぎやすさに貢献したように思います。 冬の光熱費はさすがに上がりましたが、夏の光熱費は抑えられたので、トータルでは急激な高騰とはなりませんでした。
特徴的である南棟と北棟の天井の高低差ですが、北棟リビングは最高3m80cmの高さからくる広々とした開放感、南棟個室は高さを抑えた天井からくる隠れ家のような落ち着きを感じることができ、1つの家の中でも異なる雰囲気を楽しむことができます。 さらに中庭ですが、ほぼ全ての空間から望むことができます。常に緑を感じる暮らしは気持ちの良いものです。春・秋にリビングに差し込む陽射しのやわらかさは、ネコ達を含めてすべての住民の眠気を程よく誘い、リビングの窓辺は縁側のような絶好のうたた寝スペースとなっています。
せめてここは!と思ったところはこだわってよかったと思ってます。私にとっては洗面室・浴室、そしてトイレでしょうか。生活感が色濃く現れるこれらの空間に手を抜かなかったことは、住み始めてからの維持に力が入る結果にもつながって、いつも心地よい空間でそこに在り続け、生活にゆとりを与えてくれています。 そして地震・台風等災害続きだった今年を過ごしてみて思ったのは、見た目以外の基礎や見えない部分(断熱など)の重要性でした。地盤の補強など、考えておいてもらってよかったと改めて胸を撫で下ろしたものでした。
建築家と建てる家は、奇を衒うデザインが目立つ傾向にありますが、個人的にはそこに住まう人の住み心地にもっとスポットが当てられるべきだと感じています。その点においてone-story houseは、2棟のそれぞれの仕様が用途にマッチしながら、さらに心地良さにも繋がった好例だと思っています。 暖房設備には若干の後悔が残りますが“お金をかければ快適になる”というのは当然のこと。この予算内では合格だと言えるでしょう。
平屋というコスト高の造りに加えて、素材の面白さを活かす・・・というよりは無難にかっちりとした造りを要求した為、上がり気味のコストをいかに抑えるかに苦労されたと思いますが、色々と工夫をして頂き、想定した予算・ボリューム内で建築家ならではのピリリと隠し味の効いた魅力ある家をまとめていただけたと感謝しています。
この1年は共働きでもあった為、家にいる時間もゆっくりとなく慌しく過ごしてしまいましたが、来年からはじっくりと向き合うことができます。 今後の生活スタイルの変化に合わせてこの家が変わっていく様子を、これからも楽しんでいくつもりです。